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日本のベンチャー・キャピタルシステムまとめ --米国のシステムを参考に--

ベンチャーキャピタルシステムについて調べる機会があったので、簡単にまとめてみる。

 

ベンチャー」とは

そもそもの話だが、日本の「ベンチャー」は厳密な意味ではベンチャーキャピタルシステムではない。創業して間もない、小規模な企業を一括りにしてベンチャーと呼んでいるきらいがあるが、そもそもの意味としては、ベンチャーキャピタルから出資を受けた、将来大きな発展の見込める若い企業のことを指すのである。日本の場合は資金源が限定されていないため、とらえどころがない定義になり、どこまでがベンチャーでどこからがベンチャーなのかわからなくなっている。以下、一橋イノベーション研究センターが提示しているベンチャーの定義である。

 

(1)ベンチャー・キャピタルの投資と様々な支援によって創業、及び、事業拡大を図り、

(2)短期間(4~6年間)に上場・売却などのイグジットと呼ばれる一連の手法によって大きなキャピタル・ゲインを実現する企業群であり、

(3)その創業分野は、不確実性の高い新技術・新サービス分野すなわちなんらかのイノベーションを実現する分野が極めて多い

 

ベンチャー・キャピタルの必要性

現代は余りに多様性・複雑性が増し、加えて、変化の速度が凄まじい。そのため、どうすれば成功するか予測できず、確度高く成功することが難しくなってしまった。そのため、必然、「数を打つ」という戦略が一部の条件下では最適戦略と化した。しかし、1企業ができる試行錯誤にも限界がある。そのため、社会全体で各所で試行錯誤を行い、1つのヒットで、その他のコストを帳消しにできるようなモデルが求めれるようになった。この要請に応える形で生まれたのが、アメリカのベンチャー・キャピタルシステムである。

 

そして、こうした社会的背景を生み出したのは、コンピューターの普及とインターネットの確立だった。そもそもの開発背景・存在意義からコンピューターは分散的・モジュラー的な性質を持ち、その性質ゆえ、社会の多様性が一気に増幅した。この社会変化に応える形で、上記の方向性が模索されたのだ。

 

それでは、どうすれば、「数を打つ」という戦略が有効な状態を作れるか。それは、リターンを大きくするということとリスクを低下させるということを両立させることである。これをアメリカは、具体的にはナスダックという透明性と流動性が極めて高い市場を創出し、あらゆる側面からベンチャーキャピタルのリスクを低減することで実現した。日本で言うジャスダックである。

 

そもそもVCからの資金調達は極めてリスクの低い手法なのである、起業家にとって。なぜなら、VCの目的は起業家の成功によって高いリターンを得ることであり、起業家の成功がVCの成功なのである。この点が、銀行等の間接金融や株式市場からの資金調達とは微妙に異なる。ベンチャーというとやたらとそのリスクが喧伝されるが、起業家にはそれほどのリスクはないのである。

 

加えて、VC側のリスクにしても様々な側面から低減が図られている。まず、ベンチャーキャピタルのシステム。ベンチャーキャピタルは、LPSを設立し、資金を募る。要は、様々な資金元から資金を調達し、資金の運用は一主体に任せ、資金提供者はほぼリスクゼロ(有限責任)、資金運用者のみがリスクを負担(無限責任)、二重課税を考慮した法制度が適用され、出来る限り、資金を集めやすくするような仕組みが整っている。

 

この点において、日本の法制度・税制度はまだまだ遅れていたが、徐々に改善の傾向を見せている。例えば、有限責任や二重課税に対して考慮した制度設計が進められている。

 

次に、アメリカにおいて特徴的なのは、巨大な資金がベンチャーキャピタルに流れ込む仕組みがあることである。具体的にはアメリカの年金基金が大きい。この点についてもアメリカは年金運用の制限を緩和し、比較的リスクのあるベンチャーキャピタルにも投資できるよう、対応してきた。日本はこの点においても遅れを取っているが、徐々に改善の兆しを見せている。巨大な資金がベンチャーキャピタル市場に流れ込む仕組みがあるか、そして、優秀な人材が大量に流れ込む仕組みがあるか、この2点が日本のベンチャーキャピタルシステムが成功する鍵を握っていると思う。

 

他にも株式、税制面でもVCに対して優遇策が用意されている。特に、倒産法制面での思想には見習うべき点が多い。アメリカの倒産手続きには、清算型倒産手続と債券型倒産手続きがあり、後者はチャプターイレブンと呼ばれており、倒産した経営者が再起できるよう様々な工夫がこらされている。その点でも、日本は遅れており、経営者が再起できない(全ての財産が差し押さえられるなど)ような法制度になっている。ただ、民事再生法が制定されて以来、その点についても徐々に改善の傾向が見られる。

 

要は、アメリカのベンチャーキャピタルシステムは、投資を受ける側も、投資する側もリスクが低く、得られるリターンが大きくなるよう、国や社会を挙げて工夫しているのである。失敗に寛容な文化も伊達ではなく、失敗を前向きに捉えるような思想・制度・取り組みが各所で行なわれているのだ。どこまでも合理的に考え、対応した結果、新しい産業が生まれている。そういう社会なのだ。

 

洞察溢れるエピソード

アメリカで初めてベンチャーキャピタルが生まれたのは、1946年にARD(American Research and Development)が設立された時である。その創始者の一人、ラルフ・フランダースは以下の様な言葉を残している。

 

アメリカのビジネス、アメリカの雇用、アメリカの繁栄は、自由な企業体制のもとで新しい企業が続々と生まれてくることで保証される。将来にわたって既存大企業の成長だけに依存することはできない。新しい力、エネルギー、才能を求める新しいアイデアのために、莫大な機関投資家の一部を投資する仕組みを作らなければならない。

 

非常に洞察に富んだ、素晴らしい言葉だなぁと思う。

 

今後の課題

以上を踏まえて、現在、法・税精度がいかに整備されているか、そして、日本のベンチャーキャピタルシステムの実態・実績はどのように変化しているか、今後より発展していくためにはどのような施策が足りてないのか、という点を考えていく必要がある。また、資金調達のフローを細かく追う必要もある。昨今のベンチャー支援施策を追わねば。現段階の仮説としては、大規模資金と人材が、ベンチャーに流れ込む仕組み・動きが必要なのではないかと思っている。

 

今回のエントリは以下の本を参考にさせていただいた。詳しく知りたい方は読んでみると参考になると思います。

 

イノベーション・マネジメント入門―マネジメント・テキスト

イノベーション・マネジメント入門―マネジメント・テキスト

 

 

ではでは。