日々の気付きと時々、振り返り

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本当の破壊的イノベーションとは --学術的背景から迫る、厳密な意味での破壊的イノベーション--

ちょっとこんなエントリを読んだので、少し。破壊的イノベーションは僕の昔の専門なので、簡単に解説を加えてみようと思います。別に厳密な定義は、必要無いかもしれないけど、言葉だけ一人歩きしがちな概念なので、一度書いておきます。

 

破壊的イノベーション(disruptive innovation)ってなんだろう - 未来のいつか/hyoshiokの日記

 

 

破壊的イノベーションを理解するための前提知識

破壊的イノベーションを理解するためには、『イノベーションのジレンマ』を書いた、クリステンセンにまで及ぶ、研究の系譜を、まず初めに理解する必要があります。そもそも、イノベーションとは、シュンペーターによって『経済発展の理論』の中で唱えられた概念でした。それまで、経済学は静的なものを前提にしていたのに対し、経済は創造と破壊によって発展していくんだと、動的な概念を持ち出したのが、シュンペーター経済学です。これとは別に、イノベーションを定義し、議論した人・書物に、ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』というものがあります。こちらはより思想的な内容になっていますが、この2冊が主に、今のイノベーションという概念の基礎を作っていると言っていいでしょう。

 

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard business school press)

 

 

そして、この研究を下敷きに、アバナシーとアターバックという人が、イノベーションには、プロセス(生産工程)に関するものと、プロダクト(製品)に関するものがあるんだ、という説を唱えます。そして、イノベーションは、初めはプロダクトイノベーションが多いものの、徐々にプロセスイノベーションに比重が移っていくんだ。生産性をあげればあげるほど、画期的なイノベーションはでなくなるんだ、という話をします。これを『生産性のジレンマ』と呼びます。

 

これに対して、「ちょっと待ってイノベーションには、技術に関するものと、市場に関するものがあるよね?」という考察が進みます。例えば、かつてメインフレームが全盛の時代に、ミニコン用のハードディスクドライブを出した結果、ものすごい成功を収めた、という話があります。これは、技術的にはメインフレームの方が上(記憶容量はメインフレームの方が大きい)にも関わらず、ミニコン(記憶容量が小さい≒技術的には劣位)が爆発的な成功を収めた、ということになります。ここで大事なのが、技術ではなく、市場=顧客(購入し、使う人)が変化しているということです。これがクリステンセンの議論につながります。つまり、クリステンセンの言う「破壊的イノベーション」とは、技術的な変化ではなく、市場的な変化によって、既存の実績ある企業が対応できないようなイノベーションを起こすことを言います。それでは、なぜ実績ある企業は対応できないのでしょうか。

 

破壊的イノベーションに実績ある企業が対応できない理由

それにはいくつか理由があります。一つ目は、市場の存在が確認できない、ということ。二つ目は、市場が小さすぎるということ。三つ目は、社内の価値基準・プロセスは容易に転換できないということ。四つ目は、技術の進歩は時に、市場の要求水準を上回る速さで進歩するということ。

 

一つ目から説明していきます。通常、実績ある大企業は、市場調査を行い、その結果に基づき、新商品を市場に導入していきます。「マーケットリサーチをした結果(POSデータなどを用います)、この層のこれくらいの人数の人がこれくらいの価格で買います。なので、市場規模は○○くらいあります」というレポートを受けて、Goサインを出します。ところが、破壊的技術は、市場が変化しているため≒市場が未だ存在していないため、調査すべき市場が、存在していません。そのため、「おそらく○○人くらいの人が、買ってくれます…。」という曖昧な報告しかできず、社内の認可が下りない、というケースが存在します。次に、たとえ市場が存在していても、初めの内は小さすぎて、十分な利益を得られる見込みがなく、大企業は参入できないという場合があります。大企業の利益率は、ベンチャー企業に比べて格段に高いので、今更そんな小銭を稼ぐようなビジネスに参入できないと、そういうわけです。次に、これは一点目に絡むのですが、通常大企業は--上述のプロセスイノベーションにも絡むのですが--特定の製品に対する特定の生産工程を持っています。これは、生産工程を超えて、組織内部にも言えて、とにかくその製品最適な、非常に特殊な組織体制・生産体制を敷いているのです。そのため、新しくその工程を変革する必要のあるような製品が生まれてもうまく対応できないと、そういうわけです。あるいは、合理的な判断の下、参入しないという決断を下すのです。そして、最後に、これが大事になるのですが、時に技術の進歩が市場の要求水準を上回るのです。どういうことかと言えば、「より高性能を、高性能を」と顧客が求め、その期待に応えている内に、実は市場のボリュームゾーンから外れて、「それほど高機能なものはいらない…。もっと安いのないの?」という声が大きくなるのです。しかし、企業にとって、大事な顧客は最も利益率の高い顧客なので、彼らはより高い性能を欲するんです。でも、そんな人は一握り。時代から取り残された製品を生み出してしまう、と。この市場の下側--下位市場、というんですけれども--がぽっかり空いた状態、ここに新規企業が参入すること、これを破壊的イノベーションというのです。昔のデジカメとかもそんな感じです。初めはめちゃくちゃ画像が粗くて、印刷に耐えられるものではなかったんだけれども、とにかく安くして、「撮影した画像を印刷する」という用途ではなく、「撮影した画像をその場で確認する、PCに取り込む」という用途で大成したのです。

 

以上、見てきたように、破壊的イノベーションとは、何か突飛な発想・変化ではなく、そうしたイノベーションはインクリメンタル/ラディカルイノベーションというように区分され、破壊的イノベーションは、技術/市場軸で分類されるイノベーションを言います。これを理解すると、新規企業にとってどのような戦略を取ればいいのか、理論からわかることになります。もしよろしければ参考にしていただければと思います。

 

最後に、

今回は、自分のかつての専門だったので、こうして書きましたが、まだまだ勉強を続けていきたいなと思います。

 

ではでは。