日々の気付きと時々、振り返り

しがないセールスエンジニアが日々考えてることをまとめたもの。

『電通と原発報道』を読んで --致命傷になりかねない、鈍感さとは--

僕には昔から、どこか感度が弱いところがありました。特に中高時代までは顕著で、例えば、漫画の中の名言に、話題になるまで気付かなかったりします。(有名な『天空の城ラピュタ』の「バルス!」にしろ、何度もそのシーンを目にし、その言葉を耳にしているのですが、それを「名言」とは思わず、ましてや繰り返し唱えようとはしませんでした。)そして、それが話題になって初めて--例えば、仲間内で盛り上がったり、twitter上で祭りの様相を呈して--ああ、名言だったな、と。そうか、これは名言なのかという想いと、いやこれは名言だという気付きが、同時に去来するのですね。

 

当時、僕はこのことに気付いていました。気付いていて、友人に相談するのですが、--「なぁ、俺は漫画を読んでも名言に気付かないんだ。名言に感動することができないんだ。なんでだと思う?」--友人達は決まって、「別によくない?」という反応をします。ある程度年齢を重ねた今となっては、人並み以上に名言に対する思い入れは強いのですが、--それは経験を蓄積して人の気持ちに共感できるようになったから、だらだらと文字面を追うだけだけではなく少しは考えながら読むようになったから、何が原因なのか定かではありませんが、様々な理由があるように思います--実は、この傾向は、かなり致命的な要素も含んでいるのではないかと考えるに至りました。

 

それはこの本を読んだことがきっかけです。

 

電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ

電通と原発報道――巨大広告主と大手広告代理店によるメディア支配のしくみ

 

 

なぜ、名言に気付けない鈍さが、社会の欠陥に気付けないほどの致命傷になりえると考えたのか。そのことについて書いてみます。

 

報道(文字・言葉)の意味を読み解けない鈍感力

この本の序盤には、「原子力ムラ」に関する説明が記されています。原子力ムラとは、産学官に連なる原子力装置(とそこから得られる利益)を基礎とした、コネクションです。原子力に関する実験には莫大な費用がかかるので、研究者は東電(原子力発電を管轄する主体)の顔色を伺い、東電は莫大な広告費を使ってメディアへの影響力を持つ、という協力体制ができあがっています。

 

僕はこれまで何度も「原子力ムラ」という言葉を、目にし、耳にしてきたと思うのですが、それがこれほど根深い影響力を持っているとは、本当の意味で理解していませんでした。いまいち実感が持てずにいたのです。このことは、これまでの僕のエントリ(これとかこれとか)を読み返すと、その意味がわかるのではないかと思います。どういうことかと言えば、<今の世の中は少数の限られた権力者・集団によって方向付けられている>という事実と、<この世の中には世の中の方向を決定付ける場所(ホットスポット)がある>という事実を結び合わせて考えると、この「原子力ムラ」こそが、その一つの代表例、ということがわかります。つまり、国民へのメッセージ・PRをメディアが担い、そのメディアを広告出稿量を払っている広告代理店が操作し、その広告代理店に広告費を払うクライアント(この場合、東電)が影響を与えている。そして、そこには、政・官が絡んでいる。ということで、この世の意思決定も、意思決定に伴う国民操作も、<少数の限られた権力者・集団>によって担われているということが、具体的なイメージを持って立ち上がってきたのです。

 

余談になりますが、本文中に引用されている「しんぶん赤旗」が暴露した、広告方針を引用させていただきます。これほど緻密に計算されているのかと舌を巻きました。

 

国民向け

★繰り返せば刷り込み効果

・人気タレントが「原子力は必要だ」、「私は安心しています」といえば、人々が納得すると思うのは甘い。やはり専門家の発言の方が信頼性がある。

・繰り返し繰り返し広報が必要である。新聞記事も、読者は三日すれば忘れる。繰り返し書くことによって、刷り込み効果が出る。いいこと、大事なことほど繰り返す必要がある。

・政府が原子力を支持しているという姿勢を国民に見せることは大事だ。信頼感を国民に植え付けることの支えになる。

・夏でも冬でも電力消費量のピーク時は話題になる。必要性広報の絶好機である。広告のタイミングは事故時だけではない。

・不美人でも長所をほめ続ければ、美人になる。原子力はもともと美人なのだから、その美しさ、よさを嫌味なく引き立てる努力がいる。

 

★文科系は数字をありがたがる

・泥遊びをすれば手が汚れるが、洗えばきれいになる。危険や安全は程度問題であることをわれわれはもっと常識化する必要がある。

・戦争でも状況判断ができれば、あわてなくてすむと聞く。軽重の判断をするには基礎知識が欠かせない。文科系の人は数字をみるとむやみに有難がる。

原子力がなければどんなことになるか、例をあげて説明するのがよい。

・停電は困るが、原子力はいやだ、という虫のいいことをいっているのが、大衆であることを忘れないように。

・ドラマの中に、抵抗の少ない形で原子力を織り込んでいく。原子力関連企業で働く人間が登場するといったものでもよい。原子力をハイテクの一つとして、技術問題として取り上げてはどうか。

 

マスメディア対策

良識的コメンテーターの養成

原子力に好意的な文化人を常に抱えていて、何かの時にコメンテーターとしてマスコミに推薦出来るようにしておく(ロビーの設置)。

・数名からなるロビーをつくり、コメンテーターの養成に努める。役所でレクをするときに、意識的に良識的コメンテーターの名前やそのコメントを出す。

・ロビーづくりは無理にしなくとも、記者クラブ論説委員との懇談会を利用したらよい。常設せずとも、必要があれば主婦連の人を集めて意見を聞くなど、臨機応変に対応したらよい。

・いいスポークスマンは役所のプラスイメージになる。新聞記者が積極的に彼の意見を求め、記事の中に引用するようになる。そうすると、スポークスマンの考え方が新聞記者間に浸透するようになる。一種のマスコミ操作法だが、合法的世論操作だ。

 

★テレビディレクターに知恵を注入

・マスコミ関係者は原子力の情報に疎い。まじめで硬い情報をどんどん送りつけるとよい。接触とは会って一緒に食事をしたりすることばかりではない。

・関係者の原子力施設見学会を行う。見ると親しみがわく。理解も深まる。

・テレビ局と科学技術庁のむすびつきは弱い。テレビディレクターに少し知恵を注入する必要がある。

・人気キャスターをターゲットにした広報を考える。事件のない時でも、時折会合をもち、原子力について話し合い、情報提供をする。

・人気キャスターを集めて理解を求めることが出来るなら、これが最も効果的で、いい方法である。うまくやれば可能だ。それを重視させ得る知恵者を日頃からつかんでおく必要がある。

 

学校教育

★厳しくチェック

・教科書(例えば中学校の理科)に原子力のことがスペースは小さいが取り上げてある。この記述を注意深く読むと、原子力発電や放射線は危険であり、できることなら存在してもらいたくないといった感じが表れている。書き手が自信がなく腰の引けた状態で書いている。これではだめだ。厳しくチェックし、文部省の検定に反映させるべきである。さらに、その存在意義をもっと高く評価してもらえるように働きかけるべきだ。

・教師が対象の場合、大事なのは教科書に取り上げることだ。文部省に働きかけて原子力を含むエネルギー情報を教科書に入れてもらうことだ。

 

原発反対派対策

★つながりをもって

・反対派リーダーと何らかの形でつながりをもったらどうか(討論会の開催など)。

 

どうでしょうか?僕は、「原子力ムラ」という言葉を聞いた時、これほどまでの事態の深刻さに気がつくことができませんでした。これは恥ずべきことだと思います。そして、何より、他の場合でも--例えば鉄のトライアングル--同じ構造とその影響が見え隠れしていると思うと…いかに自分たちの生活が一部の人の権益に左右されているかがわかってくると思います。きっとあらゆるところに、その構図があるのでしょう。

 

とにかく、今の自分に何ができるのかはわかりませんが、様々な出来事・情報に対して、その背景に潜む構造に敏感になり、それに対して自分の考え(是非)を抱き、自分なりの意見とアクションを持つことが大事なのではないかと思います。いいなりではだめですね。しっかりと自分の権利とあるべき世の中の姿を、主張していかなければいけないと思います。

 

最後に、

一体、僕はジャーナリストにでもなるのでしょうか(笑) ただ、ここ最近、なんとなく思うのは、しっかりと自分の頭で考えていかなければ、自分が知らないところで割を食うことがある、ということですね。それがアレントの残したメッセージでもあります。

 

ではでは。